そう言いながら、ハザはエンデニールの目の前に立ちはだかった。トロス達の顔は凍り付いている。エンデニールの目の前に、ハザの顔が近づく。穏やかな表情だった。そして唇が重なる。舌を吸い上げられた。と、それがハザの口腔に引き寄せられたかと思うと、いきなり噛みつかれた。
『あ─────!!』
 弾かれたように顔を離す。おびただしい血が口から噴きだし、倒れかかった半身を、グレイが支えた。ぴくぴくと、エンデニールの体が痙攣する。目は見開いたまま、気を喪失した。
『足を開かせろ』
 ハザが命令すると、ヨルンがエンデニールの背後にまわり、大股を開かせる。その杭は力無く垂れ下がっており、腿の付け根は、涎や精、裂傷による血で汚れ、ひくついている。
『汚ねえな。まるで便所だ』
 ハザが身じろいだ気がして、エンデニールは我に返った。付け根が、触られる。それはハザの指ではなかった。杭でもなかった。温度のない、がさがさした、硬い質感。恐る恐る、エンデニールは視線を落とした。それは、ハザの腰に下がっていたナイフだった。鞘に収められたままの切っ先が、エンデニールの後孔をつついている。
『わざわざ突っ込んでやる価値もない。これで、よがらせてやる』
 切っ先が、盛り上がった後孔を押し開ける。
『…ぁっ、や、やめろ……あ』
 エンデニールは力無い声を振り絞った。
『あ、ああ、…!ふ、あ、あああ…やめろ、厭だぁ』
 首を振る。首の爛れが、縄を擦る。開かれた足の膝裏が両側から押さえつけられ、ナイフの刀身を呑み込んだ。一気に柄まで押し入れられる。エンデニールは絶叫した。立て続けに、ハザは埋め込んだ短剣の抜き差しを始める。エンデニールが感じていまいが、容赦はない。皮の表面が粘膜を擦り、擦り剥け、流血と共に白濁した液がどろりと流れ出す。エンデニールはこらえきれずに嗄れた悲鳴をあげ、頭を振った。汗が散る。
『トロス。エンデニールを扱け。いかせてやる』
『…ひ、あ…』
 ハザは剣の柄を握りしめ、ぐいぐいと内部を掻き回す。引き裂かれるような痛みがせり上がってくる。嘔吐がこみ上げる。
 それを宥めるようにトロスの手がのびて、エンデニールの杭を扱き始めた。
『はぅっ…』
 エンデニールの腰が持ち上がった。扱かれながら、内部をえぐる短剣はさらに深くへ侵入し、ある部分へ到達した。
 鋭い叫びがあがる。そして、下肢が刀身をさらに奥へ誘うように、動き始めた。ハザは手を離した。柄の部分をぴったりと腿に密着するほど呑み込んでいる。中から溢れ出る汚汁に、羞恥も捨て、腰を振り出す。
 勿論、トロスの扱きも勢いが速まっている。
『─────いい様だな、エンデニール』

 ハザは笑った。その笑い声を最後に、その日のエンデニールの記憶は途切れた。

 それから数日間。エンデニールは裸のまま、広間に閉じこめられ、山賊達に抱かれ続けた。彼らは館を占領し、毎晩、違う相手をさせられ、時には数人がかりで嬲られた。
 エンデニールは自分の肉体の、快楽の弱点を晒され、屈辱や怒りにかわり、妥協と無気力に精神が蝕まれていった。
 なぜ、このような事態になってしまったのか、考えることはあったが、答えに辿り着くことはなかった。
 その頃には、エンデニールの容姿も様変わりしていた。長く美しい髪はもつれ、絡み合い、品位を失っていたし、やつれた頬には無精髭がのびていた。エルフ族の高貴な面影は、どこにもなかった。山賊達の興味も次第に薄れていき、近頃では手を出してくるのはハザただひとりだった。せめてもの抵抗に、悪臭のするパイプを吸いだしたが、どうやら劇的な効果は望めないようだった。もはや彼には、魔法の力はほとんど残されていなかった。それは、長いエルフの寿命がじき尽きることを意味していた。
 逃げようか。
 山賊達による拘束が緩くなった今は、その機会であった。が───何故かそれを、エンデニールは踏み止まっている。
 彼の心は陵辱によって崩壊し、疲弊していた。そしてそれ以上に、彼の第六感というべき感覚が、彼自身でも分析できない何かを訴えているのだった。
(それが何なのか、長い間の疑問が───この修道士にある)
 翡翠の眼差しが、セヴェリエを見た。
 そしてふと、我に返ったエンデニールは、書斎の中を見回した。
 物音がする。それも、館の入り口の方だ。エンデニールはセヴェリエを見て、ウィンダリエを召還した。1人を飛ばして、様子を窺う。ウィンダリエが見た光景が、エンデニールの意識下に浮かび上がった。館の扉が開き、人物が姿を現した。
 足首にまでのびた長い金髪。その体は、銀緑色のマントとミスリル銀の鎧に包まれている。尖った耳。宝石のように光る碧眼。エルフ族であった。
─────レムディン。
 エンデニールが認識すると、レムディンはウィンダリエに気がついたらしく、エンデニールを見返した。
 そして、精霊語で話し出した。
〈久しぶりだな、エンデニール〉
〈レムディン。何しに来た〉
 エンデニールは、ウィンダリエの口を借りて応じた。
〈ご挨拶だな。…姿を見せろ〉
 エンデニールはセヴェリエが気に掛かったが、息をついて書斎を出た。レムディンは、エルフ族の郷の代表格のエルフであった。小柄なエルフ族にしては長身で、魔法の他、剣や弓矢も扱える、一流の戦士であった。内戦中、エルフ軍を率いた人物であり、エンデニールとは旧知の仲だった。しかし内戦で多くの犠牲を払い、人間との共生に失望した彼らはまもなく樹海を出て、彼らの故郷のエルフの国へ脱出した、はずであった。
 エンデニールは疑問を抱きながら、階段を降り、レムディンを迎えた。
『すでに旅立ったのかと思っていた』
 エンデニールが言うと、レムディンは切れ長の瞳を細めた。
 美しいが、血の通わない、冷酷な顔である。レムディンは心持ち胸を反らして声を張り上げた。
『お前を連れに来たのだ。─────私と共に、エルフ国へ帰ろう』
森の貴族