…若気の至りにしては、笑って済まないことをしたと、我ながら思う。
 先週、俺の後輩は事故って死んだ。
 見通しの良い、昼間の道路で正面衝突。
 原因は後輩が運転中に携帯をかけていたから、ということになっている。
が、俺はそれは違うと信じている。絶対に。
 何故なら、あいつの携帯はそのずっと前から、使用できなくなっていたからだ。
…事故の原因は、『呪い』だ。
 そしてそれはもうすぐ、この俺の所にも来る。

 “彼”が俺の部屋に訪ねてきたのは、後輩の葬式の翌日だった。

「キフネさんですか。黒木です、どうも」

 淡々と軽い口調で頭を下げた彼を見た印象は、とてもそんな能力を持っているようには…という感じだった。
 俺の先輩と同年ということは、歳は27とかそこらだろう。
 寝ぼけたような奥二重で、どちらかといえば地味な風体だった。

「あのう」


 言われて俺はずいぶん彼をぶしつけに見ていたことに気がついた。

「あ、すいません。あの、俺、初めて見たっていうか…その。霊能の方って」

「ああ」

 彼は安堵したのか少し笑った。
 そして彼は俺の部屋に入ると、立ったまま、事の経緯を尋ねた。

 上着のポケットから、長い数珠を取り出す。本物だ、と俺は思った。

 それは一週間前の話だった。
 俺は後輩と二人で深夜のドライブに出かけた。
 行き先は、地元では有名な心霊スポットになっているあるトンネルだった。
 そしてそこで、この世のものではない “声”を聞いた。
 何を言っているのか分からないが、俺は恐怖に襲われただアクセルを踏んだ。
前など見なかった。
 隣の後輩の様子もわからなかった。
 そして、トンネルを抜け、数分走りようやく見つけたコンビニで車を降りると、車体に無数の手形がついていた。
 よくありがちな怪談話…だが、それで終わりではなかった。
 その翌日から、俺と後輩のまわりで奇妙な事が立て続けに起こり始めた。
 あまりに非現実すぎて、いちいち覚えていられなかったが、後輩は殺される、殺されると俺に訴え、携帯を使用停止にしてしまった。

「女の泣き声がかかってくる」

 それが、最初は一日に一件。日を追うごとに数件、十件、ついには分刻みでかかってきた。
 俺はといえば、毎晩金縛りにあう程度だったのだが。
 いずれはそれなりの処置をしなければヤバいのはわかっていたものの、どこかで事態を嘗めていたのかもしれない。
 その後輩が死んで、俺は片っ端の人脈をあたり、ようやくのことで霊能者を見つけだした。
 そう、彼――黒木柳介だ。
 お祓いでも何でもしてもらって、とにかく、呪い殺されるのは勘弁だと思った。

「だいたい、見えました」

 俺の話を、数珠をしきりに触りながら聞いていた彼は言った。
「じゃあ、さっそく始めましょうか。あなたに憑いているものを除霊します。――そこに、横になって」