よける隙なんてありません。僕はぬるぬる、ぬめぬめするロープのような触手に捕まり、あっという間に全身をぐるぐる巻かれてしまいました。首に巻きついた触手が、たちまち締め付けてきます。
「ぐっ……」
 シャレにならない程苦しくなって、僕は必死に念じました。僕の力は、何か必死に念じることで作動することが多かったのです。が、何故だかその時に限って、何も効果が出ませんでした。気持ちは焦り、もはや茨信さんより自分の命の方が心配になってきました。
 その時です。
 ふいに首の拘束が緩んだかと思うと、僕の体は床の上にどさりと落下していました。転がってから起き上がると、目の前に茨信さんが立っていました。一糸纏わぬ姿で、飴色の瞳は血のような色に染まっています。その背後には、神様が真っ二つに裂けた体を震わせて倒れていました。
「し、茨信さん」
 僕はすっかり腰を抜かしていました。神様の亡骸の背後に、背景に透けた牛車の姿が見えてきました。頭部が狐の女官と家来が立ち並び、牛車の帳を開くと、その奥の闇から白い手が手招きしました。
「───行かなくては」
 茨信さんは言うと、僕のほうへ手を差し出しました。
 思わず僕がその手をとると、しゃらりと音がして、数珠が手渡されました。
「さようなら」
 茨信さんは言うと、僕に背を向けて牛車の中へ入っていきました。
 帳が締められ、透明な牛車と人々は次第に背景に解けていきます。
「茨信さん!!」
 僕は大声で呼びましたが、すべては消えてしまいました。蛙の神様の姿も、そして砕け散った風倉先生も。
 僕はしばらく何も考えられず、その場に立ち尽くしていましたが、右手に持った数珠に気がつくと、はじめてそれをまじまじと見ました。白檀のような珠を良く見ると、艶やかな光沢がありました。まるで、蜜を溶かして固めた飴のような──── 不思議と、見れば見るほど透き通っていき、温かいいたわりのような感覚が眼から胸の奥へ染み込むようで────
(茨信さん)
 僕はもう一度、数珠をしっかり握り締めました。

「それから、僕の力の暴走はぴたりと止みました。今では自由自在に自分の力を加減して、こうして生きているというわけで…」
「加減?…どこが」
 目元を紅くして、御陵君に睨まれました。彼は今、僕の腕の中で拘束遊びに戯れている最中です。気持ち良いくせに、素直じゃないんですから…
「ぁあああうっ!く、馬鹿…!!」
 ぎぎ、と歯を軋ませる御陵君の中心の根元は数珠で締め付けられ、射精を制御しています。膨れた亀頭の先を指先で割ってやると、頭を振って喜んでくれる御陵君がとても可愛いです。
「てめぇ…な」
「はい、何ですか?」
「くだらねえ話…してる間があったら……さっさと」
「さっさと?」
「………入れろよ………っ」
 だって。…御陵君が聞いてきたんじゃないですか〜。
 僕は御陵君の体を開くと、命令どおりに体を進めました。拘束は、まだ解きません。御陵君はイく寸前に解放されるのが好きなんです。

 それにしても。
 この仕事をあとどれくらい続けたら、あの人に会えるんでしょうね僕は………?
 最後にファミレスで言われた言葉、今では十分に意味を理解しているんですけど。