どうする?
 どうするんだ?!
 何とかしろ、セイイチ!!!!
「………好きでもなければ、何ですか?同情ですか?」
「…違う」
 俺は否定した。
「じゃあ、何ですか?」
 体が震えている。寒さのせいじゃない。体の中の蟲が、どんどん奥に入ってくる。その恐怖以上に、快感に対して理性を失っている自分に気付いた。やばい。このままだと……達してしまう。
「っ……、俺は……あんたの………と」
「と?」
 荒い呼吸が、俺の言葉を遮る。声はすっかり裏返っていた。口を開いただけで、唾液が端から零れる。みっともないことこの上なかった。でも、これだけは言わないと───
「と、もだち、だから…!!!…ぁっ」
「!」
「だめ…だ、もう、イ……っ!」

 次の瞬間、何が起きたのか、わからなかった。
 眩しい光が、視界を覆った。かと思うと──────

 抜けるような青空に、小鳥が羽ばたいて行くのが見えた。
「うわ───」
 俺はバランスを崩して、コンクリートの上に膝を折って倒れた。
「あれ?!」
 目の前には、雑草の伸びた線路。振り返ると、古いベンチに時刻表。
「元に戻ってる…」
 ぼんやり呟いて、黒木の姿を探した。黒木は、ホームの縁に立っていた。真正面に、俺を見つめている。
「友達…」
 俺は腰を上げ、自分の体を見回した。
 ミミズの姿は、影も形も消えていた。おまけに、さっきの感覚まで消え失せている。
「友達───人にそんなことを言われたのは、生まれて初めてです」
 黒木はそう言うと、俺の方へ近付いてきた。人に、ってわざわざ言うんだ。わからないでもないが…
「そ、そうなんだ」
 俺は笑顔を作りながら怯えていた。
「本当に、僕の友達になってくれるんですね」
 ずい、と黒木の顔が近づいてくる。
 …俺、失言したか?!もしかして?
「あ、ああ」
 そう返事するしかなくて、俺は頷いた。
 すると黒木の顔が、みるみる笑顔に変わった。
 え…?!
 笑ったの、初めて見た!
「嬉しいです」
「あ、そう……」
 俺は動揺を隠すように、素っ気無い返事をした。
「友達かあ……」
 その後ろで、黒木が感慨深げに呟くのが聞こえてきた。
「もういいだろ、その辺で………あ、電車来た!!!」
 警鐘が聞こえてきて、俺は急いでホームに出た。
「後で携帯とメール交換しましょうね」
 黒木の声に、わざと気付かない振りをして…


───俺が黒木の友達になって、心底後悔を感じたのは、それから数日経ってからのことだった。
まさかこの俺が、あんな事に巻き込まれることになるなんて………

(一応、終わり。新章へと、つづく…)