「なんで、会いに来なかったんだよ」
「ごめん」
 周はオレを抱きしめながら答えた。少し痛いくらいに髪を撫でられる。触れられるたびに、オレは今まで抑えてきた感情が引き剥がされるような気がした。
「オレ、待ってたのに……お前を本気にしたくても、お前がいないんじゃ何も出来ねえし…」
 周はオレの肩を退いて、オレの額に自分の額を当てるように顔を近づけた。
「泣くなよ。ごめん」
「泣いてねえ」
 オレは鼻を啜りながら否定した。
「ごめん」
 周はオレの額に唇を寄せて、頭を撫でた。
「謝るなよ。ムカつくんだよ。バカ」
 罵ったオレに、周は体を遠ざけようとした。それをオレはネクタイを引っ掴んで止めた。姿勢を戻されて、周は面食らっていた。その首にオレは抱きついた。
「おまえ……」
「周」
「はい」
「抱いて」
 オレは周の顔を見ずに、耳元に囁いた。
「ここは病院だよ」
「いいから!どうせ、お前の息のかかった病院だろ。……今しかないんだよ。今を逃したら、こんなことはもうない気がする。どうせ、オレはお前を本気にさせることなんて出来ないんだろ。だから」
 オレは口をつぐんだ。そこに周の唇が重なった。抱き寄せられて、深く口づけてから、周は言った。
「………悪いけどもう本気になってるよ。多分、初めて会ったときからね」
 愛してる、とオレの湿った唇の上で囁くと、周はまた唇を重ねて、オレの腕から点滴を抜きながら、押し倒してきた。
「周」
 周の体重を感じただけでオレは熱でのぼせたようになって、周にしがみついた。

「あ……はぁっ、あ、あっ…あ、あ──」
 肌の上を唇が触れるたびに、オレの体は敏感に跳ね返って、喘ぎが止まらなくなっていた。周の顔から目を離す事が出来なかった。周の伏せた目がオレを見ただけで、感じた。
「周…」
 霞んだ目を上げて、オレは周のネクタイを外そうとした。けれどもそれを遮るように、周の手が俺の体を撫でた。オレは入院患者用の、前を紐で合わせるだけの服を着せられていたのがすっかり脱げていた。周はオレの服を完全に取り去ると、オレの体を横向きにして、背中からオレを触り始めた。
「あ…!」
 周がオレの首筋を舌で舐めながら、オレの先端にそっと指先を這わせてきた。オレは身を仰け反らせ、指の動きに合わせて熱い息を吐き出した。周の指は柔らかくて、ゆっくりと執拗にオレの熱をかき乱していった。周の手に包まれて、強張っていく表皮が、大量の先走りで濡れているのがわかる。
 オレは快感が高まりすぎて息が苦しくなっていた。耳に入ってくる、擦られる性器の悲鳴がいやらしくオレを責めて、声を高くする。
「周、あ…周……っ、はっ……」
 オレはおかしくなりながら、周の服の裾を鷲掴んで腰を動かした。「周、あ・ぁ…っ」夢中で周を呼びながら、目を開けると、周の顔が間近にあった。髪が乱れて、切なそうにオレを見下ろしていた。有無を言わさずに、オレはその唇を吸っていた。煙草臭い舌を吸い上げて、歯を立てると、周が舌を差し込んできた。
 オレは唾液を飲み下し、渇きを潤すようにさらに舌を絡ませた。
 周のオレの中心を弄ぶ手は速度を増して、オレのわずかに覗く亀頭を親指で割りながら扱いていく。
「はぁっ…」
 オレはがくがく膝を震わせて、射精した。唇をはがしたオレに、周がようやく言葉を発した。
「───激しいな……さすがはナンバーワン」
「…るせぇ。あ…ぅ」
 生暖かい液にまみれた周の指が、またオレを包んで上下に蠢く。
「や…!」
 体を強張らせながら、オレの中は再び蕩けだした。髪に降りかかってくる口づけにさえ、オレは敏感になっていた。
 今までオレは、何十人もの男に抱かれていた。子供好きな変態野郎の中には、オレを感じさせるのに長けた奴もひとりふたり居たが、大半は精液を流し込むだけに終始する便所扱いだった。勃起も射精も、オレにとっては義務でしかなかった。クスリにはまってからは、その感覚はより強くなって、自分がだんだん不感症になっていく気配をオレは感じていたものだった。だから今、周に触れられて射精した自分が、オレは信じられなかった。自分が自分じゃないような感じだった。
 周は長々とキスを続けながら、オレをそそり立たせて射精を促している。
 オレは感じ過ぎて、周に足を絡ませて体をくねらせた。全身が汗を噴き出していた。
「あ…まね…」
 オレは震えながら手を伸ばして周のシャツの胸元を引っ張った。
「どうした?」
 周の手が止まる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
十一