周の動きが止まったところで下を覗き込むと、無事根元までオレの中に咥え込ませたらしい。オレは下腹の熱くて重たい異物感に深く息を吐いた。そして、周の腰を両足で挟んだ。それを合図に、周はそろそろと腰を進めてきた。
 それをオレの体内が圧し戻すから、オレは奴が腰を退くのに合わせて結合を締めなければならなかった。
「…っあ……」
 周の口から、苦しげな声が漏れた。慣れないせいなのか、それともオレに気を使っているのか、オレは奴の顔を見て、咄嗟に首に回した手に力を込めていた。
「周……もっと奥…突いて。思いっきり…ひどくしていいから」
 すると周は無言で、オレの言うとおりに腰を強く突き出した。
 衝撃でオレの体は仰け反り、襲ってきた快感にオレは大きく叫んだ。
「あぁっ!あ、あ…んっ、ふ、あっ!」
 痙攣の始まったオレに、周がとどめを刺すように突き上げてくる。先走りのせいか、抜き差しは滑らかになってオレを追い詰め、持ち上げた両足が空中で揺れるほど、突きまくられた。
「周…周……ぁ……!」
 中に射精されながら、オレは周の肩に思い切り爪を立てて、絶頂に達した。頭が真っ白になるほどの快感は、これが初めてだった。薄目を開けて周の顔を盗み見た。
 周の両目は、情けないくらいに垂れ下がっていて、口から荒い息を吐き出していた。
 小さな声で、オレに向かってありがとう、と言うのが聞こえた。

 その日以降、周はオレの傍から離れなくなった。
 かといってオレの仕事がなくなったわけじゃなく、やっぱり月に一度は客を取らされたが、それでも以前よりはマシだった。
 オレには戻る場所があったから。
 周のインポは完全に解消した。それでオレを抱ける体になったわけだが、オレはどうも腑に落ちない感は否めなかった。本当にインポだったのかと、オレは何度となく周に訊ねた。周は、奇跡としか言いようがないと言っていた。
 周のサド気質は、インポとは無関係だったようだ。
 二人きりの時、オレは縛られたり、ベルトで打たれたりしてから、突っ込まれた。
 器具でオレの射精を封じて自分は中で何回もイくのは日常だった。それに加えて周は突っ込みながらオレの首を絞めるのが好きで、オレはセックスの度に気絶した。
 オレの頭が大人になっても良くならなかったのは、この影響だとオレはひそかに思っている。

 そして、それからまた何年かが過ぎた。
 オレの体はすっかり大人になって、子供好きの客とは縁がなくなっていた。面白いことに奴らの多くは子供に陰毛が生えた途端に、その子供をどんなに可愛がっていても、ゴミか何かのように捨てていく。そして捨てられた子供は、今度は他の需要に駆り出されて体を売り続けるか、きっぱり足を洗って他の信者と一緒に修行の道を選ぶか、どちらかの選択を迫られた。が、修行を選ぶ奴なんて、いるわけがなかった。
 そして体を売る道を選んでも、顧客を掴めない奴は、どんどん居場所を追いやられる。
 そうなった奴が最後にどうなるのか、オレは知らないが、まあ多分おそらく、周の組織がどこか風俗店でも手配するのだろう。不燃ゴミの回収みたいに。
 幸運なことに、オレの場合は周との関係のおかげでどの選択も選ばずに済んだ。
 ただ、順調なのはオレ達の関係だけで、その頃は教団も、周の組織も、何やら不景気な様子になっていた。
 一番の原因は、教団をバックアップしていた権力者のひとりが死んだことだった。
 もう八十近い年寄りだったから死んだこと自体は意外でもなかったが、そいつが死んだせいで、そいつが権力を握っていた企業を、よりによってその息子が継いだのが問題だった。息子は、以前から教団と企業の関係を快く思っていなかった、というよりは憎んでいた。普通の感覚の持ち主というわけだが、そいつが代を継いで、教団との関係を清算すると言い出した途端、教団の他のスポンサーも軒並み手を引く動きを始めたから、天使の王国は混乱した。
 上位信者は薬物中毒が進行して、頭の良かった連中も当てにはならなかった。
 動けたのは、周の組織だけだった。
 オレはまた、周と離れ離れになった。

 やっと周と再会できたのは、何ヶ月か経ってからだった。
 オレは高級店ばかりが並ぶ某所の、古い料亭に行くように指定され、そこで周と久しぶりに会った。
「助平な部屋だな」オレは言った。
 案内された部屋は、食事を置いた部屋と襖を隔てて、床を用意した小部屋がついていた。
 周はスーツ姿で立ってオレを出迎えると、案内の女将が障子を閉めて去って行った途端、いきなりオレを抱きすくめて唇を奪った。
「飯は」オレが横目で膳を見て言うと、周はオレを床まで連れて行きながら答えた。
「後でいいだろ」
 派手に押し倒されて、歴史はあるだろうが古いには違いない部屋の床がギシ、と鳴いた。
 口づけを二三度繰り返して、周の舌がオレの鎖骨から首筋をなぞる。
 オレは周の服に手をかけ、愛撫されながらネクタイを解いた。周の顔は明らかに痩せて、血の気がなかった。
「おまえ、大丈夫かよ」オレは思わず口走っていた。
「………」周はオレの服を一気に剥いて、狂犬のようにオレの肌にむしゃぶりついてきた。腕の力は容赦なく強くて、オレの腕や腰はみるみる赤く色づいていった。無言の周に戸惑いながら、オレは乱れていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
十一