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D-Ms:001 test scene Rain.

創作小説
初夏
ドームの外は長雨が続いている
なかなか太陽の見える日が無いので気分的にもちょっとグレーな感じ

センターエリアのドーム地区南部に位置するウェイルスン大学
さほど大きいとは言えないキャンパスの中に経済学部、文学部、教育学部がある
大きさだけなら中央部にあるオードリック大学のほうが広い敷地を持っている
しかし難易度の面ではこちらのほうがだいぶ上、だそうだ
私、レイン・アーレンフィールドはここの学生だ

大きくないとは言え歩くには十分すぎるほどの敷地があるので、学生達はもっぱら愛用の自転車を持ち込んで行き来している


「ハーイ、レイン 今帰り?」
シャラランと走る音に続いて聞いたことのある声
同じ講義を受けているアイカだ
私は少し間を置いて答える
「ええ、教授に呼ばれていたんですこし遅くなってしまったけれど」
どう切り出したら良いかと思案して、結局いつもどおりにすることにした
彼女はひょいと降りると私の横に並んで歩き始める
ウエストエリア出身の彼女は背が高い
一緒に話すとちょっと上目遣いになってしまう
微妙に劣等感を感じる
「なるほど~ やっぱり期待されてるのね」
勝手に納得している彼女だけど、私には見当が付かない
「何を?」
「あら、レインともあろう人が気づいてないの? 教授は貴女の出してくる論文に期待してるのよ ほら~何とかって言ってたヤツ」
そういえば先月の頭にレポートを出したら教授が何やら不気味な笑みを浮かべていたっけ
論文書かないかって言ってたのはそういうことだったのね
「えー 期待されても困るな」
私はとりあえず、その場のお茶を濁しておくことにした
勿論論文など書く気も無い

大学で私に話しかけてくる人は少ない
友達と呼べるような同級も数えるほどしかいないし、もしかすると話しかけてくれる人の数は教授たちの方が多いかもしれない
口下手なわけでは無いと思うけど、聞く限りでは私は少々取っ付き辛いそうで
私自身も特に話しかけたりすることも無いので一人でいることのほうが多いと思う
だから一緒に話せる人は微妙にズレてる感じの人とか、回りの目を気にしない人がほとんどだ
アイカはそんな会話友達の中の一人
ただ、話し始めると結構長い…
切り出しを迷ったのもそれが頭にあったから

「そしたらね、彼ったら もうちょっと気合入れてやり込むしかない! だって」
いつもどおりの会話が流れていく夕暮れ前
正門まではかなりの距離があるのでしばらくは続きそう
アイカとは大学から知り合ったのだけど、そこそこ親しい仲だと思う
私はプライベートはほとんど話さないのだけど、彼女は明け透けに話してくれていると思う
彼女が一方的に話していることのほうが多いのだけど、彼女自身は私が聞いてくれるだけで楽しそうにしている
「気合で何とかなるなら苦労しないよね」
私は感じたままを相槌して返す
「うんうん、そうでしょ~? でも、私が何か言うとぶーぶー言うんだよ」
「あはは、勝手だよね」
ここのところの話題はもっぱら彼絡みの話
先月くらいから付き合っているらしい
今が一番楽しい時期かもしれない
話しのやり取りから愚痴を言っててもそれが楽しそうに聞こえる

彼氏彼女の関係ってどんなものか、私にはまだ良く分からない
ハイスクールのときに男子に告白されたことはあるけど、丁重にお断りしておいた
容姿の好みで言ったらまあまあの男子だったけれど、彼の思う私のイメージがだいぶかけ離れていたのが大きな原因
でも、あとで後悔したとしても付き合ってみるべきだったかな?と思っていたり
私から告白したことは残念ながらまだ無い
恋愛事に興味が無いわけじゃない
ドキドキするようなことを体験してみたいと思うし
好きって言える人に出会いたいとも思う
だけど、今のところ多少憧れるくらいな男性にしかお目にかかれていない
こんな私では無理も無いか

アイカに他の友達とこういう話はしないのかとなんとなく聞いてみた所
「だって~聞いてくれるのレインだけなんだもん」
だそうで
よくよく聞けば、仲間内で彼氏ができたのはアイカ一人だけなので
どうしても嫌味になってしまうとか
彼女の話はそれほど惚気な感じを受けないけど
そんなものなのかな


「そうそう、留学生が来てるんだって」
時計台のある広場までおしゃべりしながら歩いて来たところで彼女が思い出したように話題を変えた
ちょっと驚き
留学生自体はそう珍しいものでもないのだけど
アイカがその話題に触れることが何とも珍しい
ウチの大学に来る学生は大体がウエストエリアから入試を受けて来ることが多く、アイカもその一人のはず
センターエリアの学力が決して低いとは言わないけれど統計的にみて地元は私を含めて極わずか
元々ウエスト系の大学だからと言うのもあるかも
となると、ウエスト辺りからの留学生なのかな?なんて勝手に考えてみたり
途中編入と言うのはなんだか変な気もするけど…
それ以前に彼女がそっちに興味を持つのは何かあるはず
大体貴女は他人のことを知るより自分のことを話したい人だし

「それがね、どうも訳ありっぽいんだよね」
彼女は私に耳打ちするように小声で言う
人が疎らなこの場所でだいぶ怪しいやり取りにも見える
ほらほら、そんな目配せをしないで…
「どういうこと?」
私はきょろきょろと辺りを見回す彼女に問いかけてみる
すると、さらに小さな声でアイカは呟いた
「イーストエリアの生き残りだって」
「うそ…だって、あそこは…」
私は不覚にも叫びそうになって、そこで止めた
口を押さえて周囲を見回す
思ったより大きな声では無かったらしく、こちらを見ている人はいない
まあ、女学生の他愛ない驚嘆の声と勘違いしてくれたらそれでいい
肝心なことは口にしていなかったし
安堵に胸をなでおろす私をアイカはクスクスと笑って見ていた
「レインも取り乱すことがあるんだね~」
大きなお世話です

半世紀前、世界は統一国家連邦として制定された
各国が経済的にも政治的にも単一の国家で山積みになった問題を解決することに限界が来ていた当時、とある学者の提案によって国際連合に変わる新たな世界の枠組みとして全ての国を統一した国家を設立した
かなり強引な感じが否めないが、それまで先進国と途上国と言う隔たりがあった世界の国家間に真の意味で平和と平等が訪れたと言える、と思う
本当にそうだったかどうかは定かではないが…
ある意味200以上ある国家が一つにまとめられて、さらに5分割されたとは何ともひどい話かもしれない
勿論それまで先進大国として名を馳せた国からは批判の声が上がったが、上手く丸め込まれたらしい
かくして世界は単一国家となったが、統治機関が一点集中では気候や生活も違う地域の統治に問題が出るとのことで5つのエリアに分割する方法が取られた
ノース、サウス、イースト、ウエストと方角を表す4つのエリアとその中心であるセンターの5つ

しかし5つあるエリアの一つ、イーストエリアは今現在存在しない
いや、エリアは存在するが、イーストエリアを統治するはずの中枢機関の存在する拠点が存在していないと言うべき
今から10年前にイーストエリアで統一連邦に対する反勢力の内乱が起こった
中枢のあるドーム地区で連邦政府軍との衝突し激戦になった
ドーム全域と外殻に被害が及びおよそ2億人ものエリア民はほぼ絶望
連邦政府軍も多大な損害を被ったらしい
現在もそのドーム地区および周辺は復興の目途が立たず、廃墟のままになっていると言う
そのときの経緯の詳細は今もほとんど明らかにされていなくて、私たちが日常の話題にすることもかなりタブーな感じの事柄になっていたりする
つまりイーストエリアは実在するけど存在しない、みたいな…

「先週かな?帰りがけにそれっぽい学生とウチの理事長さんがここで話してたのね 聞くつもりは無かったんだけどなんとなく…」
照れ笑いをしながらアイカは吐露する
なるほどそういうことか
留学生かどうかわからないけれど、少なくともそれっぽい学生さんに理事長が付いて何かを話していたことは確かなのだろう
イーストエリア云々の審議はかなり怪しすぎるけど
「貴女らしいわ 留学生よりもその人の素性よりも、ネタを拾ったことが重要だったんでしょ」
私は呆れながらそういうとため息を吐いた
彼女はむーと脹れて言い訳する
「違うもん!見たことない子だったから少し興味持ったもん!理事長さんが連れてるってのも気にかかったし」
「へーぇ、じゃあ理事長のスキャンダルでも見つけた感じ?…ってその子女の子なの!?」
疑いの目を向けていた私は彼女の言葉の中のポイントに気が付いて、すぐさま聞き返した
今のアイカは彼氏がいるし、結構楽しくやってるようだから男子なら興味は持たないだろう、きっと
どちらかと言うと可愛い女子に興味を持つ彼女のことだから目を引いたのだろう
さらに、理事長が連れまわすのは決まって女子だし
男子だったら校長か学部長が案内するはず…
となると、アイカが見かけたのは必然的に女子と言うことになる
「え、何でわかったの?」
きょとんとした顔で私を見るアイカ
やはり正解だったようだ
「わかるでしょそのくらい」
そう言った私はよくよく考えてみるとおかしな点に気が付いた

ウチの大学は大体8:2の割合で圧倒的に男子が多い
専攻する学部は文系だが、卒業後の行き先が政府系企業が主であり、ほぼ間違いなく幹部候補生として入社するため女子の行き場が無い
著名作家やコンサルタントを輩出していたりもするが、女性で名の通った方は聞いたことがない
つまり、女子は入るだけムダかもしれない大学なのだ
そんなところに留学生として編入するのは男子と決まっていた、はず

「変ね」
「変でしょ?」
二人で顔を見合わせて呟いた
まあ、そのうち詳細はわかる事だし
追求するまでも無いんじゃなかろうか…
「あー、レイン まあいっか!みたいな顔してる!ヒドイ」
いや、ヒドイ言われてもね
「ご明察 特ダネではあるけれど、確証は無いし、その子と関わりになるかどうかもわからないのに追求しても仕方ないでしょう 逆に下手に話が流れて変な噂になってしまったらその子に申し訳ないからこの件は黙っておかないとダメね」
私は今出来る最善策を並べてみた
アイカが信用出来ないわけでは無いけれど、はっきり言って当てににならない
彼女がどこまで聞いていたかわからないけれど、理事長の言葉を一言一句間違えずに正確に覚えているならば信用に足りるだろう
しかしあのセクハラっぽい理事長のことだから世間話のつもりでポロッとエリア話が出たとも考えられる
留学生かもしれないと言うのも、実は理事長の知り合いだったとか親戚だったとか…
そう考え始めると全部デマのような気もしてきた
「でもさ、でもさー…」
必死で反論を出そうと考えるアイカだったが、次の言葉は出てこない
しばし百面相をした挙句にさも残念そうに返事をしてきた
「…わかったよ~」
渋々と言う感じで彼女は私の言ったことを呑んでくれたようだ
ちょっと可哀相な気もするのでフォローを付けてみる
「でもほら、本当に留学生なら学内を探して見つけてみるのも良いんじゃない?気になったんでしょ?」
「んーでも、やめておくわ 会ったら有ること無いこと聞いちゃいそうで…」
ああ、そうね 貴女はそういう子だもんね
ゴメン 追い討ちかけちゃった
「もし見つけたらレインに教えるね 一緒にお話しようよ」
「私を安全装置にするつもり?」
彼女はひょいと自転車にまたがると逃げるように走り出す
そしてペダルを漕ぎながら
「そんなことないよー おしゃべり友達増やしてあげたいからー じゃあ、またねー」
と別れの挨拶を叫んで行った

その留学生と私が会う機会があるかどうかかなり微妙だと思うけど、ちょっとだけ興味が湧いた事は確かだった

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