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D-Ms:003 test scene Chino

創作小説
連邦軍司令部。
戦術機部隊詰め所に近い事務所で、私は報告書の作成に追われていた。
反政府勢力の戦術機センターコート侵入事件より半年。
私とセリカは正式に連邦軍第3師団戦術機甲部隊第12中隊所属の中尉に任官した。
とは言うもののこの第3師団のほとんどは先の教練から上がってきた新任パイロットで構成されている。
今のところ出撃するような事態は起きていないけど、第2、第8師団から派遣されていた人員が居なくなった今、何か起きたら収拾が付かないことは間違いない。
そんなことは私が知ったことではないのだけど。
ともあれ、先の事件で4機撃墜した功績もあって認められている私たちは中間指揮官として動く破目になっている。
こんなつもりで特任部に入ったつもりではなかったんだけど。

今作成している報告書は、それまでの特任部の任務結果報告と事件の概要報告書。
半年も過ぎてから出せといわれても困ることこの上ないのだけど。
このようなところでは全て記録を報告しなければ終了しないらしい。
難儀なこと。
あの事件の後機体の回収と共に私たちの身柄はこの司令部に拘束され、数日後任官の知らせを受けた。
隊長とは顔を合わせていない。
他の仲間とも連絡は取れていない。
司令部とコート内は完全に隔離されているから当たり前かもしれない。
司令部をほぼ自由に歩きまわれる待遇は得たものの、息が詰まりそう。
でも、私は私なりにやっていくしかない。
とりあえず、セリカが一緒で良かった。

中隊の一日はとても退屈な時間。
訓練と警備、そして演習の繰り返し。
大した変化も無く単調な職務を続ける毎日だけが過ぎていく。
まあ、何かあるほうが困るんだろうけど。
正規任官した新任兵たちは未だに緊張とプレッシャーに苛まれて一杯一杯な状態。
私もそんな状態であれば少しは退屈しないで済んだのかもしれないけれど。
一度実戦を経験してしまった身としてはシュミレーション訓練でさえ退屈に感じる。
あのときのようなスリルと恐怖が紙一重の緊迫したモノは一切ない。
口にはしないけれど…
こんなにも本当の戦いを求めていたなんて、自分でも知らなかった。
いいえ、そうじゃない。
私は新しい「相手」を欲しがっている。
私が思いもよらない攻撃をしてくる相手。
私に恐怖を感じさせる相手。
そして、
それを倒したとき、喩えようもない快楽がこの身体を駆け巡る。
あのときのように。

キーボードを打つ指を止める。
違う。
違うわ。
そうじゃない。
私はそんなものを求めてなんかいない。
確かに半年前の実戦は何も判らないまま夢中で戦った。
でも、本当に戦っていたのは私ではなくセリカだ。
私は彼女の戦いを後ろから見ていただけ。
こんな現実、早く終わって欲しいと思っていたはず。
痛みを伴うことが怖くて溜まらなかった。
やられたことを考えると正気で居られなかった。
だから、私はガードを担当するマシンとなることにに徹した。
現実逃避したんだ。
前を向いていたのは彼女。
逃げたのは私。
だのに、私は再びソレを体験したいと感じている。
どうして?
怖いのに。
辛いのに。
逃げ出したいのに。
頭を振って取り留めの無い思いを振り払う。
今はこの職務を終わらせよう。
長引かせて上官の機嫌を損ねるくらいなら、適当でもさっさと提出する方が良い。
再び私は指を動かし始める。



ドーム北西部ゲートより侵入した5機の反政府勢力の戦術機はコート中心部を経由して南東部に進路を取っていた。
ウェイルスン大学付属研究地丘陵部を目指していたものと思われるが、あくまで進路解析による推測に過ぎない。
連邦軍支部局のビル地下に保管された資料用戦術機を用いてセリーナ・レン元大尉部下であるセリカ・ガラッティ、チノ・ショウン両中尉が出撃。
侵入した戦術機の迎撃に成功する。
一部市街地に逃げ込んだ機体が住民を巻き込む結果になったが被害は最小限で抑えられたと思われる。
この被害による建造物施設の破壊は10棟8世帯。
被害者数、死亡3名、重症37名、軽症174名。
なお当日同時刻、被害にあったスタジアムシティではバトル・アーマロイド・ファイト選手権大会が開催されており被害者のほとんどがこの大会参加者、観戦者だった。
この被害の処理は連邦政府が直々に見舞金、補償金を支払うことで全て終了している。
補足事項として、戦闘中に出現した白い戦術機に関しては記録データの破損が激しいため現段階では報告を見送る。


特殊任務部として最終選考に残った8名は反政府勢力戦術機の侵入事件によりスタジアムシティの破壊、システムダウンによるデータ損失により候補選出が出来ずに終了解散を迎える。
事件後、隊長であるセリーナ・レン元大尉の転属、部隊員セリカ・ガラッティ、チノ・ショウン両中尉待遇の正式任官、他メンバーの負傷により部隊の存続が不可能と断定。
事件同日を持って解散を決定する。
残留データの抹消と既存候補生記録は諜報部により遂行され完了された。
更に第3師団戦術機甲部隊大隊の再編の完了のより部隊の任務は全て終了と認定された。
なお所属メンバーの諸待遇については人事部が担当。
負傷治療費において全額補償、および部隊任務完了褒章金を支払い済み。
更に1名の市民権授与を承諾した。


簡単に要約するとこんな感じの報告書を作っている。
長ければ良い訳でもないし、短すぎて要点が抜けても意味が無い。
書き方のお手本を見ながら打ち込んでいるが思うように捗らず。
指示されてすでに3日が経っている。
いい加減に出さないと何か言われそうだから今日中に仕上げるつもり。
あともう一息と言うところで、そっとカップが差し出される。
「あ…」
振り返ってみれば、そこに中隊長の姿が。
「よくがんばるなぁ。ま、安いお茶だけどちょっとは息付いたらどうだ?」
様子を見に来たのか、暇つぶしできたのだろうか、彼の手にもカップがあった。
事務所の外に自販機があったからそこで買って来たものだろう。
ちょうど喉を潤したいと思っていたところだった。
「ありがとうございます大尉」
「なあに、礼は要らんよ。いつも世話になってるのはこっちだからな」
苦笑しながら彼は言う。
中隊長を担う彼だが、残念ながらまだ実戦経験が無い。
本来ならば佐官クラスが中隊長を担うはずなのだけど、新生第3師団戦術機甲部隊はほとんどが候補生上がりの新任なので士官が足りない。
陸・海軍より補填要員士官が編入されてはいるけど、戦術機部隊の特性上正式な指揮官としては経験者でないと難しい。
彼も階級こそ大尉だけど経験は私より浅い。
任務についてのアドバイスを時折私やセリカに求めてくるのも致し方ないかもしれない。
「気にしないでください。私はやれることをやるだけですから」
「はぁ~、ショウン中尉は割り切りが良いね。俺には無理だな」
割り切っているわけでもないのだけれど、そう見えるのかしら?
自分に出来ることはやるけど、出来ないことは手を出さないだけ。
有効だと思うことはやるけど、無意味だと思ったらやらない。
ああ、そう考えたら割り切りしてるかも。
感情的に考えて行動することがあまり無いからそう見えるのかも。
部隊員ともまだ付き合い浅いし。
「大尉はどうしてこちらへ?事務所に用事なんて書類作製以外では来ないものだと思ってましたけど」
「おいおい、そりゃあ酷い言われ様だな。それじゃここに居る人間に用があっても来れないじゃないか」
「は?報告書ならお持ちしますけど…」
「だったら自分の部屋で待ってるよ。もうすぐあがるんだろ?」
てっきりこの報告書の催促だと思ってた私はちょっと困惑した。
時間的に少しかかりすぎだと思っていたから尚更そっちばかり気にしていた。
すると大尉は私に用があってここに来たということかしら。
「冷めないうちに飲めよ。それ、出来たら俺のところじゃなくてレン少佐のところに行きな。さっき少佐が直々に伝えに来たよ」
「レン…少佐が?」
「確かに伝えたぜ。次の任務は明日の早朝だから早めに寝といてくれな。じゃ」
手をひらひらと回しながら彼は部屋を出て行った。

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