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D-Ms:002 test scene Serena

創作小説
「では本日より、高度な近接格闘実習に入る。怪我をしたくなければ本気でかかれ。先刻渡された冊子の通り相手をねじ伏せるまで勝負は終わらないからな」
シュミレーター室に集まる候補生たちがざわめきだす。
当たり前だ。
今までは装備された武器を如何にして上手く使いこなし標的に確実に当てるなどという、私にとっては不抜けたような修練しかしてこなかった。
ある意味シュミレーター慣れしたヤツには嬉しい実習だったかもしれない。
が、そこに落とし穴があることをとことん判らせてやるつもりでいる。
我ながらサディスティックなことを考えたものだ。
大佐辺りに聞かせたら震え上がること間違いないだろう。
「ああ、言い忘れていたが制限時間内に勝負がつかない場合、乱入するモノが出てくるからな。手っ取り早く終わらすのが身のためだぞ。何せそいつはお前らよりはるかに強いからな」
ニヤリと含み笑いを浮かべてやる。
途端に候補生共は青い顔を見せ始める。
よしよし、思惑通りだ。
こうして最終試験に向けた特別実習が始まった。

執務室に戻る。
久しぶりにかいた汗はいやに粘つく。
気だるさだけが身体にまとわりつく。
教官服を脱ぎ捨てると私はゆらりとシャワー室へ入る。
備え付けのこの部屋はユニットバスなのにバス自体が無いというおかしな作りになっている。
まあ、こんなところで湯船でくつろげるほど優雅な仕事ではない。
相変わらず機械油臭いボディソープで手早く流しタオルを手に取る。

ここは戦術機のコクピットに似ている。

私はいつも感じている。
当たり前だが、間違っても戦術機ではシャワーなど出ない。
バスタブがあるわけでもないし、何もかもが違うはずだ。
しかし、この雰囲気…ユニットで作られたこの閉鎖空間があの記憶を呼び覚ます。
4年前…もう4年も経つのか、それともまだ4年なのか。
セリーナにはほんの数日前のように思える。


「ヴェクターリーダー・01ゴトーより各機へ。各機目標を捕捉出来次第殲滅!打ち洩らしは許さん!」
「了解!」
「02から06散開して包囲!07、08は支援射撃!残りは俺について来い!」
「了解!」
辺りはまだ夜も明けぬ暗闇。
遠くにかすかにエリアドームの放つ光が見える程度。
暗視カメラが装備されてるとは言え、最後に信じるのは自分の感覚だけだ。
こんな演習は嫌になるほどやってきた。
それほど難しいことは無い。
耳に付くのは機体の動作音だけ。
だけど…出撃してからずっと嫌な予感がしている。
「09!セラ!どうした?フォーメーションを崩すな!」
「く、申し訳ありません、隊長!」
気がつかないうちに力んでいたようだ。
戦術機は手足の感覚に直結している。
感情の乱れがすぐに機体の動きに出てしまう。
「セラ、そう固くなるな。オマエなら軽くこなせるミッションのはずだろ?」
隊長が私のことをセラと呼ぶのは配属されて以来ずっと。
他の隊員もそうだけど、フルネームで呼ぶには長くて言いづらいとか。
「隊長…少し気になることがありまして…申し訳ありません」
気を取り直してフォーメーションを直す。
僅かなタイミングのズレが作戦の失敗に、自分や仲間の死に繋がることはこれまで嫌というほど思い知らされてきた。
「それは俺も同じだ。だがすぐに接敵するぞ。気を抜いていれば殺られる。そう教えたはずだな?」
「はい」
「なら今は集中しろ。お前一人のために仲間が犠牲になる」
「了解」
このときの隊長、アリセ・ゴトー大尉は私を高く評価してくれていた。
私の所属していたV003-01小隊は恐らく第3師団戦術機大隊中最高の能力を有した精鋭部隊だった、と思う。
全軍出撃の命令が出る前に私たちはすでに出撃している。
先鋒を務める我が隊は主力が到着するまでに進路を確保することが最優先任務だ。
ある意味捨石とも言える部隊ではあるが、敵陣の腹に穴を開けるには単に弾を撃ち込めば開くわけではない。
派手にぶちまければその分敵に察知され集結してしまい、突き進むのが困難になってしまう。
最小限の火器と戦力で最大限の効果を上げる。
私たちは一番最初に防御ラインを突破することが与えられた任務だった。
だが今回の作戦の度重なる予定変更、出撃時間の前倒し、予測データと違う敵の動き。
サテライトレーダーの映し出していた敵影は約600。
これが正確なのかどうかすら怪しくなってくる。
イーストエリアの不穏な動きは数週間前から情報が流れてきていた。
いつ事が起きても良いように私たち先発隊はその時点で出発命令を受けた。
クーデターの予測はすでに指令本部で掴んでいたらしいが。
我が隊はイーストエリア付近で隠密待機する事になっていた、はずだった。
現地に到着するや否や出撃命令が下され、物資補給地点さえ確認できないままこの地を駆けている。

「セリーナ。大丈夫だって。あたしがガードやるからには思い切って行って良いからね」
コクピット後方から声をかけてくれたのは今回のペア、マナミ。
彼女とは同期入隊で何度もペアを組んだことがある。
正式に実戦で組むのは初めてだが的確にガードの役割をこなす最も安心できる相棒と言える。
それ以上に彼女とは親友だった。
「判ってる。マナが居てくれるから私も安心できるよ」
「うん、任せて」
次の瞬間、コンソールにレーダー探知されたマーカーが点滅する。
UNKNOWN…敵だ。
「接敵3秒!右2、正面3」
「09より01、右を頂く!」
「01了解!コンタクト!」

一撃で戦術機を仕留める猛者が集まるのはV003-01小隊だけだと思う。
それだけは間違いなかった。
ほとんど衝撃音を立てずに相手を倒していく。
襲い掛かられた相手は何が起きたか判らぬうちに深い闇に沈む。
時間にしてわずか2分足らず。
私たちは敵の前衛の一部を切り崩すことに成功する。
敵の防衛ラインからこの場所が一番要所であったはずだからここに穴を開ければ必然的に後退を余儀なくされるはずだ。
「ヴェクターワンよりヘッドクォーター。ミッション完了。ポイント04からエリアまでの進路を確保」
「こちらヘッドクォーター、了解。ヴェクター隊は本体到着までその場で現状維持しろ」
「ヴェクターワン了解。だ、そうだ。みんな、またワリ食わしちまったな」
それぞれに愚痴を言いながらも了解と答える隊員たち。
ひと時の休息。
足元には戦術機の残骸。
自分たちと同じ褐色の機体。
違うのは肩部にマーキングされた所属章。
コクピットを打ち抜いたからパイロットは絶望だろう。
仮に生きていたとしても私たちが手を差し伸べることは出来ない。
すでに、敵同士だから。
これが戦い。
力のぶつかり合い。
なんて不毛な…
つい思ってしまうこと、思ってはいけないこと。
情けをかければ殺られるのは自分である。
だから私は心を閉じ込める。
深く深くに押し込めて鍵をかける。

「セラ」
「あ、はい、何でしょう?隊長」
不意に大尉から秘匿通信が入る。
秘匿とは言ってもペアだから自分以外にも聞こえてしまうわけなんだけど。
「気になること、と言っていたな」
「はい。いつもと様子が違います。予定変更が多すぎると言いますか…胸騒ぎがします」
「そうだな。ある意味予定など無駄だったのかもしれん」
「え?」
大尉の言葉に耳を疑う。
作戦は計画的に進行しなければ各部隊の統率が取れなくなる。
大隊規模にもなるとその数は膨大になるからむやみに動くことは自滅を意味する。
こんなことは初歩の初歩だ。
思い当たりで兵を進めれば隙を突かれる。
力で押せば勝てるなど太古の兵法じゃあるまいし。
いや、そんなことはどうでもいい。
予定が無駄と言うのは、まさか…
「フン、顔色が変わったな?お前のそういう切れの良さが俺は、好きだぞ」
最後の部分だけ強調されて耳に届く。
「ちょ!隊長!茶化さないでください!」
「あはは、悪い。でも、好きだって言うのは嘘じゃあない」
あーもう、こんなときにそんなこと言わないでくださいよ、と口にできたらもっと楽しく会話が出来ただろう。が、私にそんな器用さは持ち合わせていない。
「ダ~メですよ隊長。セリーナはあたしのです」
なんてのたまわるヤツも後ろに居る。
「こりゃあ強敵だ!参ったなぁ~で、セラはどっちを選ぶ?」
「いい加減にしてください!」
モニターと後部座席に挟まれた私の身になれっての。
そんなじゃれ合いもそこまでで、大尉の眉間に皺が寄る。
「そうだな。じゃあ、セラは今回の出撃がどういうことか推測できるかい?」
真剣な面持ちで私に問う。
「え、えーっと…大尉は予定が無駄だったのかもって言いましたよね?そこから今までの一連の行動を重ねてみると…中央本部にとって、予想外のことがイーストエリアで起きたって事、ですよね」
「そりゃそうよ。クーデターが起きるなんて誰も思わなかったんだから」
後ろから口を挟んでくる。
まとまりかけてたのに。
「あー、マナはちょっと黙ってて。クーデターってのは多分本部の言い訳、ですよね?隊長」
「正解。俺たちが今倒したイーストエリアの治安部隊は本部の進撃を全く聞かされてなかった、と見ていい。その証拠に彼らは反撃に転じることすら出来なかった…すなわち我々が向かってくることを知らなかったんだろう」
「じゃあクーデターはデマってことですか?」
マナミはどうしてもクーデターに結び付けたいらしい。
しかし隊長の言うとおり、クーデターを起こしたならば中央政府が黙っていないことくらい予測がつくはず。
しかも主戦力である戦術機を遊ばしておく余裕など無いはずだ。
イーストエリアに配備されている戦術機は約1000機。
そのうち常時稼動できるものはおよそ500機前後。
とすればサテライトレーダーによって確認された600ほどの機体数も不思議ではない。
仮にクーデターが始まっていたならば本部との衝突を警戒して機体総数を稼動させるだろう。
なのに警戒守備が治安部隊だけとは…
「すでに術中にはまってしまったかもしれないな…」
隊長の呟きが嘘じゃないことを知るのはもっと後のことだった。

「ヘッドクォーターよりヴェクターワンへ。本体到着まで約23分」
「え!?」
通信から流れてきた本部の連絡に私は思わず声を上げてしまう。
「10分後に次のフェーズに入る。各自ミッションの全容を把握せよ」
「ヴェクターワン了解!そーら来たぞ」
23分で到着?いくらなんでも早すぎるでしょ?
最初の予定時間と全く合わない。
それ以前に本部からこの拠点まで全速でがんばっても3時間はかかる距離がある。
予定では明日の夜明けと共に進撃だったはず。
それまでに我が隊が進路を確保してエリアへの侵入を容易なものとする、だったはず。
「どうした?セラ。どう考えても可笑しい、笑っちゃう~って顔してるぜ」
「違います!って隊長判ってたんですか?」
「薄々な。まあ、聞けよ。あと10分少々余裕あるからよ。今のHQの連絡はみんなにも聞かせといたから大事は無いだろ。お前も次のフェーズの全容でも見ながら俺の話を聞け」
「はぁ…」
促されて送られてきたミッションスケジュールを確認する。
が、それは予想を超えたもので…
「これ!どういうことなんですか!」
と、私が叫ぶ前にマナミが声をあげていた。
第2フェーズで全軍はエリアドーム付近まで進行、反抗分子の掃討。旗艦の進軍を待って第3フェーズに入る。
第3フェーズではドーム内を制圧、軍支部を中心に戦術機部隊の動きを封じる。
進軍には砲撃部隊が先頭に立ち武装解除を促すが、抵抗した場合これを殲滅する。
…まるでエリア自体を吹き飛ばす勢いだ。
「つまりな、イーストコートの中で本部にとってかなりヤバイ状況が起きていると考えた方が案外飲み込めると思わないか?」
確かに、例えばそこで本部にとって都合の悪いことが起きたのなら、事が表面化しないうちに隠滅しようとするだろう。
「でもよ、連邦軍全軍を出撃させるほどの状況って果たして何なのかって考えると、こりゃまともに思いつかないわな」
大尉は淡々と話を続ける。
恐らく大尉は以前からこのことについて知っていたんだ。
でも、あえて私に話すのはメリットがあるんだろうか、とそのときは思っていた。
「隊長はそれを掴んでいるんですか?」
「んー、どう思うよ?」
「…落ち着いていますから」
むしろ落ち着き過ぎているくらいの冷静さを感じていた。
私の知る大尉は陽気でお茶目でちょっと渋いオジサンで…恐ろしくカンの鋭い人だった。
全てにおいて憧れであったことは確かだった。
だからこそ先刻の告白めいた言葉をいきなり出されると戸惑いを隠せなかった。
「セラはさ、いい目をしてる。何があっても生き残れる。だからこの話をする。俺の胸だけにしまって置くにはかなり苦しいんでね…少しばかり背負ってくれないかな~と」
「お断りです」
私は隊長の言葉が終わらないうちに即答する。
色気出して隊長の誘いに乗ったらあとで大変な目に遭うことは判っている。
これ以前にも何度も同じような目に遭っている。
いい加減部下に苦労かけないで欲しい。
「そう言うな。イーストエリアではな、次世代新型戦術機の開発研究をしているのは知ってるな?その研究班がどうも厄介なものを動かしちまって本部に連絡したらしいんだわ。収拾付かなくなったらしいな。で、本部は廃棄処分しろだとか言ったんだろうな。ヤバイもんみたいだし。でも、そこに別の勢力が働いたみたいなのよ。多分。そんなやり取りしてるうちにエリアとの連絡は途絶えちまって仕方なく本部が動き出したってわけだ」
「厄介なもの?別の勢力?」
「詳しくは判らん。戦術機と関係があるんだか無いんだかもな。恐らくはソイツに何かあったと俺は見てる」
「…つまり、本部はイーストエリアで新型機の研究と共に、その厄介なものの研究もさせてたってことで合ってます?」
「ん、まあな」
「その厄介なものが手におえなくなった…もしかして研究班が本部に内密に別の勢力と接触を?」
「そのセンも可能性はある。…FOHとかな」
「反乱分子ですか?じゃあ、そちらに有利な何かがあったとか」
「多分な。俺はFOHが研究班を巻き込んで本部公認を良いことにそいつを起こしちまったんじゃないかと推測してる」
「起こす?」
「言ったろ。次世代新型戦術機と関係があるんだか無いんだかって。次に配備されるだろう戦術機で求められる能力と言ったらなんだ?」
「え…」
「現在の機体のディメリットを考えればわかるだろ?」
「…単座、火器装備、スピード?」
「50点だな。防御と索敵能力、行動範囲の拡大を追加だ」
「そんなに性能が上げられるんですか?」
「普通無理だろ」
「あぐ…」
「しかし、アレを使えば可能かもしれない。それがさっき言った厄介なものだ」
アラームが鳴る。
ミッションスタート時間だ。
私と隊長のやり取りをじっと聞いていたマナミがコンソールを叩き出す。
「機体、オールグリーン。残弾数チェック。残エネルギーチェック。現在位置確認。ミッションタイムセットオン」
いつもの戦術機セットアップが流れるように進んでいく。
私も進行フェーズを叩き込まなくてはならない。
「全部は話せなかったな。仕方ないから帰ったら話してやるよ。でもな…」
大尉はそこで言葉を切った。
何かを思いつめるようにした後に出た言葉は
「どんなことがあろうとも、お前は生きて帰れ。これは俺からの命令だ。最悪仲間を見捨てても構わん」
「た、隊長!?それって…」
「この機密は諜報部のビリーから託されたもんだが…ヤツも消されちまったんでな。恐らく本部には俺が機密を知っていることを承知で先鋒に出してる。それだけ厄介な怪物らしい今度の…」
そこで通信が途切れた。

ズズンと地響きがする。
「接敵反応!01ダウン!」
マナミの声が響く。
なに?うそでしょ?大尉が…ヤラレタ?
目の前が白くぼやけてくる。
「セリーナ!!」
しかし、マナミの声に私の身体は反応した。
機体は迫り来る物体を寸でのところでかわし切る。
見て、避けきったわけじゃない。
それまでの経験によるカンで機体を反らせただけ。
相手は速過ぎて肉眼では、特にこの暗闇では視認することすら出来ない。
「全員コンタクトフォーメーション!高速移動する物体が居る!隊長がやられた!」
「何!?」
「こいつか!この…」
「ぐぅ…04が…」
瞬く間に3機のマーカーが消える。
なんて相手だ。
レーダーには瞬く間に軌跡を描く物体が映るだけ。
索敵レンジを上げれば捉えられるなんてレベルを超えている。
不意打ちとはいえみんなが手出しも出来ないなんて…
「09より各機へ!これより私がリードする!高速移動する物体は暗視カメラも役に立たない!全機散開して軌跡をトレース!各機データリンクでヤツの進路を推定しろ!」
「了解!」
「りょう…」
くっ…通信してる間にも仲間が殺られる。
こんなことがあるはずが無い。
私たちは最強のメンバーなんだぞ!
「速過ぎる!弾が追いつかないぞ!」
「射撃に頼るな!地形と近接打撃を上手く使え!」
この高起動を有する戦術機でも振り回される相手とはどんなヤツなんだ?
「こちらヘッドクォーター、何が起きた?ヴェクター隊」
今頃通信してきやがって…こっちはそれどころじゃあないっての。
「現在未確認の高速移動する…敵と交戦中!小隊半数が撃破されている…」
ガードオペレーションを行いながらもヘッドクォーターと応答してくれているマナミ。
あっちもかなりきついはずだ。
「了解。ヴェクター09を現時点を持ってヴェクター01と変更。ヴェクター隊はそのまま敵をロストしない距離を保て」
なんだって?そんなことが出来るなら苦労しない。
隊長も他のヤツもやられてるんだ。
こっちもいつまで持つか分からないってのに…
「ヴェクターワン了解。本隊到着までどのくらいだ?」
「こちらヘッドクォーター。本隊はすでに展開中だ。すぐに交戦に入る」
ようやく来たか。
「こちら09から変更した01、何機残ってる?」
「08健在、かろうじて」
「06健在、ってやべえ!」
「07健在。本隊確認!」
「05健在。一瞬ヤツが止まった映像を捉えた。余裕があったらガードは見とけ!」
5機か。
一気に7機やられたことになるな。
「セリーナ!相手は…」
その声にコンソールを見る。
05が捉えた機影。
間違いなく、それは戦術機の姿。
バカな!?
あんな速く動ける機体なんて…
でも、これがさっき隊長が話していた新型機だったとしたら?
ありえない話でもない。
とにかく現状で迎え撃つには不利だ。
「本隊に合流する!威嚇しながら高速後退しろ!」
「やってるー」
「真っ直ぐ逃げるな!フェイントだっての」
「意外に頭悪いぞこいつ」
チッ、こんなときでも口だけは達者なヤツらだ。
だからここまでやってこれたのかもしれないが。
「御託は後で聞いてやる。とにかく何としても離脱しろ」
「ぐえーマジかよ!打撃が通らねぇ!」
近接打撃で応戦しろとは言ったが本当にやるヤツがいるか!
この状態でも得体の知れない相手を倒そうとするなんて馬鹿かも。
隊長の話が本当ならば私たちの戦術機の能力では歯が立たない可能性が高いだろう。
現にこの常識外れのスピードと破壊力だ。
恐らく攻撃もフルパワーの打撃でさえ跳ね返すだろう。
私は瞬間で以上の思考をまとめて指示を出す。
「06!もういい、下がれ!」
「ふざけんな!隊長やられてんのに下がれるかっての!」
「違う!そいつには多分ほとんどの攻撃が通らない」
「ああ!?それを早く言え!」
データリンクでの軌跡解析が功を奏し相手の動きが判ってくる。
高速移動は出来るが急激な反転や停止と言った動作は出来ないらしい。
円弧を描くように動き回るため容易に割り出せた。
「本隊の掃射で打ち落とすぞ!フォーメーション07で誘い込め!」
言わずとも判っていたかのごとく各機所定のポジションで相手を撹乱する。
「ヘッドクォーターよりヴェクターワン。ポイント0369に照準を自動セット。ターゲットを3秒で追い込め」
「了解!」
軌跡ループから3秒でおつりが来る。
オーダーに変更なし。
そのまま突っ走らせる。
2…1!
ヤツが走りこむその場所に砲撃隊の一斉掃射が降り注ぐ。
いくらヤツのスピードが速くても直径200m範囲を掃射されれば避けることは不可能だ。
しかも降り注ぐのは戦術機など軽く打ちぬく迎撃砲弾の雨だ。
光の雨の中にヤツが倒れこむ姿を私は見て胸を撫で下ろした。

5機連携による連続的なフェイントを混ぜたヒットアンドアウェイで相手を足止め撹乱する事に成功。
ここまで即席フォーメーションが出来るのも我が隊だけだろう。
だから逃げ切れた。
恐らく他の小隊では無理。
あのスピードに付いて行けるものなど…
「隊長…」
あの隊長があっさりやられる相手。
不思議と彼の死に対して悲しみや悔しさは湧いてこなかった。
私でさえあの一撃を避けられたのは運が良かっただけだ。
もし、先に襲われたのが私だったら間違いなくやられていただろう。
我が隊は本隊の一斉射撃を背に何とか本陣に退却することが出来た。
本隊は通常では使わない高出力広範囲迎撃砲弾を掃射し逃げ場を失った未確認戦術機は残骸だけが横たわる。

それは悪夢の始まりのほんの1時間前…

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